【不定期企画】 教員による図書紹介(3)2016年12月

清水です。ほぼ月1企画となっている「教員による図書紹介」第3回は、学生の声に応えてみました。お題は、「趣味の一冊」です。趣味も趣味に対する考え方もさまざま。

◆脇先生

親譲りの無趣味で、子どものときから夢中になる「何か」があまりありませんでした。そんな僕にも寝食を忘れ、いや忘れませんが、かなりハマったものがあります。ひとつは歴史、もうひとつは音楽です。小学生~高校生の自分は重度の歴史オタクでした。が、時は移ろうもの。今でも好きではありますが、趣味と呼べるほどではないのです。

音楽は趣味です。間違いなく。大学生のときは、アコギをジャカジャカ弾いて隣から“壁ドン”を頂戴したことも。隣の人、ごめんなさい。というわけで、「趣味の一冊」というお題に応えるならこれかな、と。
rockin'on 2017年 01 月号
『ROCKIN’ON JAPAN』2017年1月
正直なところ、熱心な読者とは言えないと思います。学生時代、毎月立ち読みはしていましたが、買ったのはほぼゼロ。本屋さん、ごめんなさい。けれど、渋谷陽一の、自分勝手だけど熱量の多い記事は、僕のサブカルへの興味を開いたきっかけです。自分の解釈をより大きな文脈に乗せて考えるという「快感」を教えてもらいました。

その「快感」が研究で味わえるようになったからか、今はまったく読んでいません。音楽は自分のために聞くもの。ようやく純粋な趣味になったのだと思います。

◆古川先生
『東京のパリ案内―パリジェンヌ気分でめぐる都内50スポット』六耀社、2010年
フランスの日常的な文化に興味があり、また、専門研究の1つにフランス民法があるので、心はフランスに向かっています。このところ、時間と費用の関係でなかなかフランスに行く機会を持てなく、この本で日本のパリを楽しんでいます。まだ、どこも行ってはいませんが、この本が傍にあるだけで幸せです。

◆山東先生

Jonathan Maberry著,The X-Files: Trust No One,Idea & Design Works
私がアメリカに留学したのは1993年から94年にかけてですが、ちょうど93年秋から放映が始まったのがこのX-ファイルです。当時は英語の勉強も兼ねて、毎週寮のリビングでテレビの前に陣取っていましたが、ハマりすぎた結果?とうとう夢の中で、モルダー&スカリーと共演を果たしました(笑)

ペーパーバックだけでは物足りず、オフィシャルガイドブック・ マガジン・マップ、スクリーンプレイ、攻略本、CDなど、色々取り揃えています。興味のある方はぜひ研究室までどうぞ。

◆原先生

私は「趣味」という言葉が昔からどうも胡散くさくて気に入らない。真剣ではなくそこそこでいい、気散じの対象というイメージがつきまとっているからだ。仕事の補完物であり、どうでもよい退屈しのぎという意味での趣味など持ちたくもないし、「無趣味」で大いに結構と言いたい。

そもそも労働とその余暇にする趣味という近代ブルジョワ社会が体制維持のために都合よく生み出した二分法にどうしてこちらが従わなくてはならないのだろうか。仕事が苦痛としか感じられないのは不幸であり、疎外された労働を糊塗するためにあてがわれる余暇での趣味は、おのずから負の刻印を帯びざるをえない。それも無類の読書好きであり、それが昂じて仕事との見境がつかないほどになっている人文学研究者であればなおさらのこと、趣味と読書を同類に並べるには違和感を覚えざるを得ない。趣味などという甘い言葉ではなく、好奇心・興味をとことん突き詰めていくことこそ、人文学の醍醐味なのだから。
水木 しげる 『妖怪になりたい』 、河出文庫、2003
趣味と仕事という二分法に囚われない生き方を学者としてではなく、漫画家として実践したのが他ならぬ水木さんであり、自分の根っからの「奇妙なことへの興味」に趣味としてではなく、真剣に取り組み仕事へと昇華させた希有な例であろう。私も生来いろいろなことに興味をもっているが、それを自分の仕事と全く関係のない遊びや趣味としてほどほどに追求するのではなく、仕事と同程度かあるいはそれ以上に真剣に追求して相互に作用を及ぼしあうのが良いと考えている。

◆青木先生
アガサ・クリスティ『茶色の服を着た男』、東京創元社、1967
私が学生のころ、落ち込んだときにいつも寝転がって読みふけったのがこの本です。若い女性主人公の、あり得ないようなスリルとサスペンスの冒険物語で、主人公と自分を重ね、時間を忘れて物語にのめり込みました。主人公のアン・ベティングフェルドは、父を亡くして天涯孤独の身になり、職探しをしている最中にロンドンの地下鉄ホームで、偶然隣にいた男が線路に転落して感電死するという不気味な事件に出くわします。それを皮切りに、次々と殺人事件に出くわし、ついには暗号の手紙に導かれてアフリカ行きの客船に乗り込み、事件の核心と関係のあるらしい「茶色の服の男」の謎を追いかけることになります。そして、いつの間にか危険な事件のど真ん中に飛び込むことになるのです。そこには、美しき堕天使ルシファーが彼女を待っていました。自分のあこがれの人が実は恐ろしい悪人であったというどんでん返し。アガサは、次々に魅力的な仕掛けを繰り出し、読者を物語に引き込みます。

物語のクライマックスは手に汗握る脱出ドラマで、主人公が危険から逃れるまでを一体となって体験することになります。それを読み終わるころには、落ち込んだ気分も出来事からもいつの間にか抜け出しているというのがいつものことでした。退屈な日常から抜け出したいときにおすすめの第一級の冒険物語です。長い冬の夜にどうぞ。

◆清水

 「趣味」をどのようなものと考えるかは人それぞれだと思いますが、「趣味」を余暇の過ごし方の一つ、とするなら、今の私に趣味はありません。スケジュールを見ると、仕事、家事、育児、休養(仮眠など)だけで、余暇と言える(思える)時間がない…。

読書もタイトルを見直してみれば仕事や研究関連のものがほとんど。しかし、日頃数分の隙間時間があれば読んでいた本がありました。珈琲関連の書籍です。
臼井 隆一郎「コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液』、中央公論社、1992
珈琲の発祥から説き起こす本書は、珈琲という「黒い液体」が、各国の宗教や歴史の細部にまで流れ込んでゆくさまが、それはそれは緻密に描かれています。「ちょっとお茶でも」の意味がこんなに違うなんて…と驚きますよ。これを読んで私が思い浮かべたのは、台湾の(実は)豊かな珈琲文化。(日本ではなかなか飲めないですが、「阿里山コーヒー」は有名。)ということで、最近は台湾珈琲文化の本を探しています。自身の専門とは全く関係ないけれど、何かしら仕事の一つにできれば…と思ってます。

ゼミ紹介6 (重迫ゼミ-アメリカ文学研究ゼミ)

清水です。

多忙な重迫先生に代わり、重迫ゼミの紹介記事を編集しました。ゼミ生から重迫ゼミについて聞き取りましたので、この時期ゼミ選択に悩む2年生は是非参考にしてくださいね。 写真は全て重迫先生のお部屋にある素敵な本棚を写したものです。
どの本棚でしょう
現在、3年生は6名ほどだそうです。ゼミでは、主にサブカルチャーについて各自調べてきたことを発表し、教員やゼミ生と熱い議論を交わしているのだとか。テーマは色々とあるようで、今年は、野球、アニメ、韓国ドラマなどがあるそうです。
どの本棚でしょう
ゼミの時、重迫先生は資料の作り方や発表者とは別の視点から色々とアドバイスしてくださるとのこと。また、発表内容については、「何も知らない人にはどう説明すればわかってもらえるのか」といった観点からも具体的な指導をしてくださるそうです。

確かに、「ラブライブ」をテーマにした場合、当然発表者は「ラブライブ」がどのようなアニメでどれくらい人気があるのかなど知っていますよね。ですが、清水のように「ラブライブ?名前くらいしかしらないなあ」という人に対しては、説明するにもそれなりに配慮や工夫が必要です。
どの本棚でしょう
最後に、重迫ゼミについて以下のような感想ももらいました。

・ これまで考えもしなかったことについて他者の視点から知ることができ、非常に勉強になる。
・ お互いに良い影響を与えあっている。
・ 自由にさせてもらっている。入って良かった。
・ おもしろいゼミです!

ジンブンの三蔵祭-縁日で和気あいあい^^

5限が終わって教室から出ると外は真っ暗になっているこの季節…。そろそろこたつでみかんを食べたい季節…。みなさんいかがお過ごしでしょうか?お久しぶりです。人間文化学科、一年のFです。

さて、今回の学科ブログは福山大学最大のイベント、3日間(一般公開は2日間)通して行われた三蔵祭での人間文化学科の活動「遊びまshow @人文」をほんのごく一部ですが紹介したいと思います!

まず初日は、、
スーパーボールすくいとヨーヨー釣りをしました!小さな少年少女や、大きい少年少女??まで沢山の方々に来ていただきました!みんなゲットしたヨーヨーを一心不乱にポヨンポヨンしていました。

そして2日目は、、
射的をしました!2日目ですが、私は部活の関係上三蔵祭には参加出来ませんでした。しかし、初日を上回る盛り上がりを見せたようで、2日間に渡って活動してきた人間文化の三蔵祭は大成功で終わることができました!!
そして、童心に返って的をロックオンしている大きな少女はいったい誰でしょうか……?笑


ゼミ紹介5(青木ゼミ-日本近現代文学研究ゼミ)

青木ゼミでは、2007年から、郷土の作家・井伏鱒二の「在所もの」(備後地方を舞台にした作品)を取り上げ、作品に描かれた地域文化についてフィールドワークを続けてきました。

今年、三年生のゼミでは、小説『鞆の津茶会記』(1986・昭和61年)を読み、講師に備陽史探訪の会会長・田口義之氏を招いて、第1回フィールドワークを行いました。

小説『鞆ノ津茶会記』は、戦国時代の後半期、小早川隆景の家臣を主とする地域の武将たちが、鞆の浦の対潮楼、安国寺庫裏、神辺の鳥居兵庫頭の屋敷などで開かれた茶会に集まり、その出席者の一人が、みんなが話したいろいろな噂話を書き留めた記録という体裁をとっている小説です。

その中では、歴史の教科書には出てこないような、地元の武将たちが登場します。中でも、何度も人びとの噂に上ったのは、杉原盛重と、その息子たち─元盛・景盛の間で起きたお家騒動の話です。時代は大河ドラマ「真田丸」と同じ時代で、織田信長の中国攻めの頃のことです。今回のフィールドワークでは、杉原盛重が地域に遺した事跡を辿りました。

講師 備陽史探訪の会会長・田口義之氏

参加者
 青木ゼミ3年生(井上翼 佐藤未佳子 高橋幸子 溝口りな 宮地菜緒 山廣愛)
 聴講生 小川マチ子
 学生有志 藤岡瞭 児玉樹 木村美沙希 小林朋美 保手浜菜摘
 教員 青木美保 前田貞昭(兵庫教育大学大学院教授) 谷川充美(本学非常勤講師)
 報道関係者─粟村真理子(中国新聞エリア通信員) 雨宮徹(朝日新聞記者)

日時 2016年10月30日9:30~16:30

見学場所
 1,赤坂八幡神社(天正8・1580年、神辺城主・杉原盛重再興)
   宝篋印塔(福山市重要文化財・14世紀半ばの建立)
   西国街道沿いの常夜燈
 2,三宝寺(山手町、杉原家菩提寺、杉原家の墓、位牌見学)
   太閤屋敷跡(秀吉が九州下向の際に立ち寄った時、近在の武将が建てたという)
 3,天別豊姫神社(神辺町、伝・杉原盛重奉納の兜見学)
 4,鳥居兵庫頭屋敷跡(湯野・城之内、遺稿の石組みらしきものあり)
 5,国分寺(神辺町、杉原盛重再興)
 6,蓮乗院(八尋、杉原盛重寄進・五仏像見学)

杉原盛重は平清盛と同族で家柄よく、当時全国でも三本の指に入る有力武将で、福山の町作りの基礎を作ったということです。その経済力の源は、中国地方の鉱物資源(金・銀・鉄・銅)と、海陸の流通を押さえていたことによるとのことです。

小説を読んだだけではどうして杉原家のことがこんなに描かれるのかよくわかりませんでしたが、事跡を辿るうちに杉原盛重一統の存在感がひしひしと感じられてきました。

参加した青木ゼミでは、直後のゼミの時間にフィールドワークの報告会の第一回目を開きましたが、「これまで歴史が苦手で小説になかなか入れなかったが、実際に場所を巡ることで、歴史を身近に感じた」(山廣)という感想が聞かれました。また、赤坂・神辺に住む学生達は、特に強くそのことを感じたようで、次のように言っています。

「今回のフィールドワークで最初に訪れた赤坂八幡神社がある赤坂町は私の地元であり、八幡神社に入る道の手前に立っていた石造りの常夜灯も昔からよく見ていたもので、神社もあまり行ったことはなかったが知っている場所だった。しかし、神社の歴史自体についてはこれまで深く知ろうとしてこなかったため、この八幡神社を再興したのが杉原盛重であるということを初めて知り、驚いた。私たちが歩いたあの八幡神社の場所も、過去に盛重が同じように歩いたのだろうかと思うと、何だか盛重を身近に感じられるような気がした。」(佐藤)
天分豊姫神社所蔵 伝・杉原盛重奉納兜
TOPICS

今回のフィールドワークでの第一の成果は、杉原盛重寄進の五仏像です。これは、仏像の背面に、寄進主、願主、仏師の名前が直接記されている極めて重要なものです。青木は、神辺歴史民俗資料館の2015年度秋の企画展「杉原・福島時代の神辺城」で展示されていた際にこれを見て以来、ぜひ学生にも見せたいと今回のフィールドワークに組み入れることを考えていました(神辺歴史民俗資料館の学芸員の方には、2015年度地域文化研修の際にその展示資料の一部をデータ支給していただきました)。そして今回、ご住職のご好意によって、学生たちの見学が実現したのです。

講師の田口義之氏も極めて貴重な資料であると驚かれ、これを世に出したいと今後の調査について意欲を示されました。写真は、蓮乗院の門前でとった集合写真と、五仏像の写真です。(粟村真理子氏提供)


さて、青木ゼミの今年のフィールドワークの目標は、『鞆の津茶会記』の研究と同時に、これを中心とした戦国時代の歴史を巡る観光ルートの提案にあります。特に神辺町と鞆の浦を中心に、周辺の産物なども含めたものを、学生とともに考えてみたいと思っています。12月には、鞆の浦へのフィールドワークを行う予定です。

【不定期企画】 教員による図書紹介(2)2016年11月

清水です。月1企画「教員による図書紹介」第二回です。

今月のテーマは、「研究のおもしろさ」です。

◆山東先生


Truman Capote (著) Breakfast at Tiffany's, ,Penguin Essentials,2011
大学3回生の時ゼミで読んだ洋書で、アメリカ英語に興味を惹かれるきっかけを与えただけでなく、1年後の留学に更なる希望を抱かせてくれた1冊です。原作は1958年発表ですが、オードリー・ヘップバーンが主役をつとめた1961年公開の映画もオススメ〜見終わった後は、思わずムーン・リバーを口ずさんでしまいます♪

口語・俗語がたくさん出てくるので、若干難しく感じるかもしれませんが、講談社英語文庫からは注釈つきのテキストが出ていますし、最近では村上春樹版の新訳もあるようです。学生時代に使用したテキスト・ノート・レポートも残していますので、興味のある方はお気軽に。


◆脇先生

いきなりですが、ひとつ懺悔を。実は「あなたの専門分野は?」という質問が苦手です。「語用論」とか「コミュニケーション論」などと答えてみるものの、いまだにしっくりきません。

もともと言語学を学んでいたはずの自分が、気づくと社会学の方法や概念も使っている…けれど興味の中心には常に「言語」が存在していて…すっかり分野の迷子です。私としては自分の問題意識と素直に向き合っただけなのですが、気づいたら言語学の王道から離れていたわけです。
 

“道を踏み外した”のはいつなのだろう、と考えてみました。分水嶺となったのは、この本でした。
菅野仁『ジンメル・つながりの哲学』 (NHKブックス)、NHK出版、2003

読んだ瞬間、「自分がやりたいのはこういうことだ!」と胸が躍りました。当時の私は、自分の興味が向かっている「これ」は一体何なのかという、漠然としているけれど非常に切迫したモヤモヤを抱えていました。自分の問題意識が明確になってきたのに、それを言語化できていなかったわけです。

正直なところジンメルについてはよくわからなかったけれど、「つながり」への思索は圧倒的に深まりました。この本から、より厳密に言えば菅野さんから(文章を通じてですが)受けた影響というのは絶大です。「言語」を武器にしてこの本で語られていることについて追究しよう…これが、今の研究の出発点でありゴールなのです。 


◆柳川先生

 「研究のおもしろさ」というテーマは、本を選ぶにはなかなか難しい。最もおもしろいと感じるのは、調査中の「大國家文書」だが、これに関しては残念ながら「本」が刊行されていない。学生時代に読んだ武家故実書や史料集を紹介しようか、とも思ったが、あまり共感を得られそうにない…
今谷明『戦国時代の貴族―『言継卿記』が描く京都』、講談社、2002
とりあえず、資史料のおもしろさに関連する本であれば、山科言継(やましなときつぐ)という貴族(武家服飾に関する論文を書いた際、随分お世話になった…)の日記を通して、戦国時代の社会や文化について記した『戦国時代の貴族-『言継卿記』が描く京都』などはどうだろうか。武将や合戦とは異なる戦国時代の一面が見えてくる。

近世に関連するものであれば、『近世人の研究-江戸時代の日記に見る人間像』。大名から町人、百姓まで、様々な身分の人が書き残した日記を紹介するとともに、近世の人々のモノの見かたや考え方を考察している。この中で取り上げられている朝日文左衛門の日記は『元禄御畳奉行の日記』で紹介され、一部は『摘録鸚鵡籠中記-元禄武士の日記』として活字化もされているので、近世人の「声」を聞いてみたい人はこちらもどうぞ。

ここまで長々書いて何だが、私にとっては「大國家文書」が一番おもしろい。いずれ論文集が刊行される(と思う)ので、その時は是非どうぞ、と最後に宣伝を。 


◆清水
宮崎市定『科挙ー中国の試験地獄』、中央公論新社(改版)、2003
直接の専門とは異なりますが、東洋史分野の名著、宮崎市定(みやざきいちさだ)『科挙-中国の試験地獄』を紹介します。学生の頃に本書を読んで、研究の「底力」や「凄み」を感じました。テーマは書名の通り、中国で1300年余り続いた科挙制度。時代も国も異なるのに、なぜそこまで詳細なことがわかるのか、どのような史料をどこまで読みこめばここまで書けるのかと感動しました。自分でもその感動を味わいたくて、日々史料や文献を読んでいるように思います。

本書には、制度や時代背景のみならず、当時科挙に関わった人々の生き方も克明に記されています。過酷な試験に耐えられず発狂する人、過去に誘惑して死に追いやった女性から祟られる人、カンニング(今も昔も変わらない?) でなんとか試験をパスしようとする人、など。

さて、科挙にパスするための試験勉強は過酷で、小さな頃から始まります。以下、その雰囲気をさらりと拾い上げた箇所を引用します。手始めに暗記するのは『論語』で、先生が読んだ後をひたすら繰り返すものだったそうです。

先生が、学而時習之(シエ・アル・シー・シー・ツ 学んで時に之を習う)と読むと、生徒がそのあとについて、シエ・アル・シー・シー・ツと大きな声をはりあげる。次に先生が、不亦説乎(ブー・イー・ユエ・フ また悦ばしからずや)と読むと、生徒も、ブー・イー・ユエ・フと読んで、これを何べんとなく繰り返す。しかし実際のところ、生徒は少しも悦ばしくないので、ついわき見をしたり、袖のなかで玩具をもてあそんだりしているのが見つかると、先生は遠慮なく叱ったり叩いたりする。(24頁)

子供にとって「おべんきょう」は少しも悦(よろこ)ばしくない…とは、いつの時代も変わらない?


◆古川先生
野崎綾子『正義・家族・法の構造変換−リベラル・フェミニズムの再定位』、勁草書房、2005
この本は、「家族と法」について研究することを、さらに深く意識したものです。

著書の野崎綾子は、弁護士から、法哲学研究者に助手に転身し、法学概論の原理問題と取り組む研究に進み、法哲学者としての活躍が期待されていましたが、32歳のときに途半ばで急逝しています。

近代以降、政治社会と家族は、公私二元論によりそれぞれ異なる原理が適用されるとしていましたが、第二波フェミニズムは、私的領域に女性の抑圧の原因があるとして、公私二元論を批判しました。これを契機に、著者は、政治の領域を支配する「正義」の原理が、家族の領域にも適用されるには、「正義」と「家族」・「親密圏」との関係をどのように捉えるのかという問題について考えたものです。少し難しいですが、読むと何となく著者の真摯な思いが伝わってきます。

◆重迫先生

丸山 圭三郎『ソシュールを読む』、講談社、2012
1983年出版の単行本を、おそらく1987年ごろ読んだはずです。他の著作とともに、言語に対する関心、想いを一気に高めてもらいました。詳しくはまた。


◆青木先生
宮澤賢治『注文の多い料理店』
出会い─賢治の世界へ

かねた一郎様 九月十九日あなたは、ごきげんよろしいほでけっこです。あした、めんどなさいばんしますから、おいでんなさい。とびどぐもたないでくなさい。山猫拝

鬱屈した高校生で会った私の心の扉をたたいたのは、こんなたどたどしい葉書の文句でした。

これは、宮沢賢治の童話集『注文の多い料理店』の巻頭の童話、「どんぐりと山猫」の冒頭に出て来る山猫からの手紙である。この手紙をもらった一郎は、小躍りして喜び、夜も眠れぬほど興奮した挙げ句、翌朝山猫を探しながら、山をさまようことになります。

高校生のころの私は思春期特有の万年憂鬱症とでもいうべき状態にありました。私は何かと自分の中にとじこもりがちで、心の居場所を探しあぐねていました。そんなあるひ、本棚の片隅で忘れられていた童話を読み返してみようと思ったのが、賢治との長い付き合いの始まりとなりました。そして、真っ先に私の心を捉えたのは『注文の多い料理店』でした。

山猫からの手紙は、一郎にも私にも、「心の世界」を開いてくれたのでした。そこには「にゃあとした顔」の山猫が待っており、「めんどなさいばん」についての意外な判決がありました。

このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのがいちばんえらい。

なんて愉快、痛快な言い切り。不機嫌で気難しかった私の心に、この逆さま言葉は飛び込んできました。賢治の童話は、当時の私にとって、アリスの「うさぎの穴」ではなかったかと思います。

それから、私は、新しく出版された『校本宮澤賢治全集』を全巻持って、大学に進学し、卒業論文を「銀河鉄道の夜」で書き、修士論文を「風の又三郎」の元になった「村童スケッチ」で書き、学位論文を詩集『春と修羅』などで書き、現在に至っています。高校の時であって以来、人生のかなりの時間をかけて、賢治と付き合うことになりました。
 


◆原先生
テーオドル・W. アドルノ『ミニマ・モラリア―傷ついた生活裡の省察』 、法政大学出版局、2009
哲学・社会学・歴史学・文学のいずれにも関心があり将来の専攻に迷っていた大学2年の時でした。大阪梅田にあった旭屋書店で、当時日本の近代思想を研究していたドイツ人講師と偶然出くわし、おすすめの本として紹介されたのが本書でした。まさに憑かれたように読みふけり、一読この思想家アドルノに心酔してしまったのです。思えばアドルノ自身、哲学・社会学・美学・文学のどの領域でも一流の仕事をした狭い専門の垣根を超えた学者でしたが、そのスタイルは今の私にも影響を与え続けています。

◆山川先生

眞念 稲田道彦(注釈)『四国徧禮道指南(しこくへんろみちしるべ)』、講談社、2015
江戸時代の真言宗僧眞念が、四国遍路に関わる旅行情報満載のガイドブックを書き記し、明治時代まで重版を重ねた超ロングセラー本で、民衆が四国遍路に出掛けるきっかけとなり、現在の四国遍路の基礎を築いたと言っても過言ではない本です。

今般、長年にわたって実地に歩きながら遍路研究をされてきた稲田氏により、本書が現代語の全注釈付きの文庫本として出版されました。単に遍路札所寺院の紹介だけではなく、近辺の地勢や町、史跡、当地の名物に至るまで盛りだくさんの情報が記され、江戸時代に庶民による四国遍路の隆盛を引き起こしました。旅行好きな人や四国遍路に関心のある人には必須本です。

ゼミ紹介4(原ゼミ-ヨーロッパ文化研究ゼミ)

こんにちは。原ゼミの紹介をさせていただく人間文化学科4年生の I です。現在原ゼミに興味を持ってくれている方に原ゼミの良いところが伝われば、そして少しでも興味を持ってもらえたら、嬉しく思います。ゼミ生は、4年生5名と3年生4名の合計9名です。

Q原先生ってどんな人?

先生のご専門は“ドイツ思想”、“社会理論”、“美学理論”です。難しい響きの学問だと思われるかもしれませんが、かじる程度でもとても面白いので、少しでも興味を持たれた2年生以下のみなさんはぜひぜひ原先生の講義「社会学概論」等を受けることをおすすめします。

原先生の研究室で特筆すべきは、妖怪関連の本(有名どころでは水木しげるさんの著書等)がたくさんあるところではないでしょうか。先生ご自身が妖怪好きなのですが、原ゼミでは妖怪で卒論を書いた卒業生が毎年のようにいます。人間文化学科にはもともとサブカルチャーが好きな方が集まっていると思いますので、この“妖怪”というジャンルもまた、人間文化学科生にとってとっつきやすく興味を抱きやすいのかもしれませんね。妖怪から派生する形で中世~近世の日本の文化、歴史にも通じていらっしゃいます。古今東西幅広い知識をお持ちですので、現在どんなジャンルに興味を持っていても、必ず一定の助言をくださいますよ。

発表の際は準備に手抜かりがあれば厳しい一言も頂きますが、学生本人が自分の研究テーマに熱意を持って取り組んでいれば、身になるアドバイスで確実に応えてくださいます。やる気のある人は最後まで面倒を見てくれる面白くて優しい先生です。

Qどんな研究テーマをやっていますか?

現4年生の卒論テーマをざっくりと挙げますが、絵画、海賊、日本芸能、マネジメントと多種多彩です。各人興味の赴くままに自由にテーマを定めましたが、原先生はジャンル問わず幅広い知識をお持ちでいらっしゃいますので助言もたくさんしてくださいます。どんなテーマでも興味を持って下さいますし、ほんと、正直なことを書いてしまえば、先生の専門に関係のないジャンルでも学生の好きなように自由にさせてくれます。 

Qゼミではどんなことをしているの?雰囲気は?

3年生と4年生の合同ゼミを月に1回程度行っており、これから卒論の準備に入る3年生に向けて、4年生が卒論でどんなことをしているか、というのを1人ずつ発表します。3年生にとってはある程度卒論の指針になりますし、質疑応答タイムでの3年生の質問から、4年生は卒論のヒントを得ることもあります。

4年生は毎週1回研究室に集まって、卒論の進捗状況をローテーションで発表しています。これも各発表が終わる度に質疑応答を挟み、先生を交えたゼミ生同士、質問を投げかけ合ったり意見を交換したりします。最初は遠慮がちで意見を出さない人でも、ゼミ内が気軽に意見を出しやすい雰囲気かつ、先生にどんどん質問を引き出されるので、発言力や積極性がメキメキ鍛えられていきます。

さて、原ゼミではお花見に始まって新歓コンパ、中間発表会をかねた夏合宿、忘年会等、楽しいイベントをたくさん行います。ゼミの最終目的である卒論に関してはきっちりしますが、楽しいことは思いっきり楽しむ、オン・オフのはっきりしたゼミだと考えてくだされば結構です。
夏合宿での恒例のバーベキュー。先生手作りのカレーが出るかも。
  
Qこんな人は原ゼミへ!

・現在卒論のテーマで迷っている人
もし自分が興味を持ったジャンルに対して専門の先生がいらっしゃらない場合でも、上に述べたとおり原先生は専門外であろうとその幅広い知識で対応してくださいます。オフィスアワーに気軽に研究室を訪ねてみることをおすすめします。

・就職活動に不安がある人
原ゼミでは就職活動の進捗報告をとてもマメに行います。選考を控えている学生にはその都度アドバイスや励ましをくださいますし、報告の度ゼミ内で就職活動についての情報を共有することは、実際非常に有意義でした。原先生ご自身が就職委員を務めていることもあって、合同企業説明会でゼミ生の興味のありそうな会社が出ているという情報や、就職関連のイベント情報は、いち早くゼミで得ることができます。

・ドイツが好きな人
原先生は学生時代ドイツに長期間留学していらしたこともあり、ドイツの言語や文化に大変造詣が深いです。先生からドイツ留学時の楽しいお話をたくさん聞いてみてください。ドイツ語を学びたい、という有志で集まってドイツ語検定の勉強会も行っていますので、気になった方はこれもまた、原研究室へ気軽に遊びにきてくださいね。

飲み会は先生が好きでよくやっています。これは鍋を囲んでの忘年会。

ゼミ紹介3(柳川ゼミ-日本史研究ゼミ)

みなさんこんにちは。柳川ゼミ所属の人間文化学科4年のKです。

まずは簡単に4年生ゼミについて紹介します。メンバーは女性4名、男性1名の計5名です。

日本史専攻のゼミですが、研究テーマは全員日本の文化についてなので、どちらかというと文化史色が強いかも知れません。柳川先生も服飾について研究されていたそうです。

毎週のゼミでは、就職活動の近況報告をしたり、卒論のテーマについて調べたことを発表したりしています。近況報告は雑談になることが多いですが、やることはきちんとやるメリハリのあるゼミです!


先生も丁寧に指導してくださいますし、私たちの発表を聞いて関係がありそうな本が研究室にあれば本棚からパッと抜き出して貸してくださいます。

就活もちついてきたので、いよいよ卒論に本腰を入れる時期です。今までにない量の文章を書くことになりますが、皆で励まし合いながら頑張ります。

今年になって、フィギュアたちが増え始めて、なんだかにぎやかです。カタツムリやハシビロコウ、鳥獣人物戯画などなど…

 

個性豊かな顔ぶれが皆さまをお待ちしています!

【不定期企画】 教員による図書紹介(1)2016年10月

今月から、月1企画として「教員による図書紹介」を始めます(どこまで続くかわかりませんが)毎月決まったテーマから各教員が選んだ図書を紹介していきます。紹介される本のジャンルはさまざま。本との出会いを楽しんでください。

今月のテーマは、「秋といえば」です。

◆重迫先生
『ユリイカ 平成28年2月臨時増刊号[総特集]江口寿史』、青土社
「秋といえば」秋でなくても一年中、本を読むのが仕事であり、趣味でもある人間文化学科の教員として、今読んでいる雑誌の特集号をご紹介します。原稿が書けなくなることで有名な漫画家、江口寿史は、寡作でありながら、日本のマンガ史上重要な作家であり続けています。彼の作品をマンガに限らず、広く深く研究した成果、あるいはその存在への愛あふれるコメント満載の特集です。「趣味から学へ」の実践の一記録として推薦いたします。


◆脇先生

秋といえば、「食欲の秋」ですかね。池波正太郎も捨てがたいところですが、「食」で思い出したのはこの一冊。
野瀬泰申.『天ぷらにソースをかけますか? ニッポン食文化の境界線』、新潮文庫、2009年
私はかけませんよ、ソースなんて。麺つゆのようなタレ(+大根おろし)が多い気がします。お店だと塩でいただくこともありますよね。少なくとも、ソースは、無い。作者が集めたデータによれば、きれいな東西対立が見られるそうで。ソースをかけるのは、西日本全域・・・ん? わが故郷の大分も約半数の人がソース派とのこと。そうなのか。

食文化も言葉も、地域差は非常に興味深い事象です。ですが、「おもしろ~い」だけで終わるのはあまりにもったいない。その差が何を意味するのか。どのように変化しつつあるのか(例:恵方巻)。なぜそのような変化が起きているのか。これらを考えることで、私たち自身/私たちの社会に鋭いメスを入れることができます。「日本」「日本人」が一様ではない(=なぜ一様だと思い込んでいるのか)ということを再認識するための良い事例でもありますね。

ちなみに、この本、続編があります。タイトルは『納豆に砂糖を入れますか?』。う~ん・・・そもそも納豆が嫌いなんですけどねぇ。


◆清水


金庸著、岡崎由美監修、小島瑞紀翻訳『秘曲 笑傲江湖』全7巻、徳間書店、2007年
若い頃に寝食忘れて「読書の秋」を満喫した記憶を辿ったところ、この本に。(今は寝食忘れると家族に怒られますので…) 金庸(きんよう)は中国の武侠小説作家で、絶大な人気を誇ります。以前、他の大学にいた頃、法学部の先生たちと飲みに行った時のこと。とある先生に、自分が中国語の授業を担当していると話したところ、

「僕、金庸の作品大好きなんだよ。面白いよね!」という話で盛り上がりました。

法学がご専門の先生だったので、「こんなところにも金庸ファンが…」と驚いた記憶があります。「武」は武術(実際は方術も含む)、「侠」は「男気、男伊達」。しかし全編通じて男臭い訳ではなく、めっぽうかわいらしい女性も登場します。…そういえば、男でも女でもない登場人物もいたような…。とにかく、魅力的なキャラクター達が作品世界を縦横無尽に暴れ回ります。翻訳も読みやすいと思います。


◆青木先生

島木健作、ユザンヌ、佐藤春夫『本』、ポプラ社、2010年

「本」に取り憑かれた男たち─オクターブヴ・ユザンヌ「シジスモンの遺産」

インターネット時代の読書はネット小説、電子書籍と、デジタル読書が拡がっていますが、実はそんな風潮をあざ笑うかのように、「本」の中では密かに「本」マニアが生き生きと活躍しているのです。そんな「本マニア」の代表的な一人が、オクターヴ・ユザンヌ(フランス生まれ、1852~1931)です。彼が書いた小説「シジスモンの遺産」(1894年作、短編集『愛書家たちの物語』所収)には、強烈に「本」を愛し、価値ある「本」を奪い合う二人の愛書家同士の、すさまじい争奪戦が描かれています。その愛書家は、主人公ギュマールとその愛書家仲間のシジスモンの二人です。その戦いは、シジスモンの死後まで、彼の蔵書を守るために彼が遺した遺言状によって続いていきました。

 そんな「本」マニアは、「古本道楽」、「愛書家」、「書物狂い」などと呼ばれ、「文学への関心とは別個に、書物をそれ自体独立したものとして観賞する、すなわちその外的形態、用紙、印刷、装幀などを愛で、もっぱらその造形的美しさ、稀少性、保存状態などに書物の価値基準を置く」者たちで、その「伝統は、他のいかなるヨーロッパ諸国よりもフランスにおいて特に顕著であり、根強く行きわたっている」とのことです(「フランスの愛書家たち」─アンドルー・ラング著『書物と書物人』に拠る)。

 つまり、この世に1冊しかないとか、有名なあの人が持っていたとか、有名な出版人が出版したとか、著名な画家が装丁したとか、本の内容もですが、その本の成り立ちにドラマのある本とでもいいましょうか、そういった「本」そのものへの愛に、生涯を、いえ命をかけた男達の物語です。しかし、その「本」への愛着は、現実の生活を捨てさせ、この世ならぬ「物語」の世界に没頭させます。多くの「愛書家」の物語は、「愛書家地獄」とか、「愛書家煉獄」といった名前の通り、主人公の愛書家たちが、本のために自らをなげうち、破滅へとつき進む、悲劇の物語でもあります。

この男達にとって、「本」は、自分の建てた城で日々その美しさを眺める美女のようなものだと書かれていますが、このような男達は、愛によっていき、子供を産み育て、現実の世界に豊饒をもたらす女性にとっては、敵(かたき)以外の何者でもありません。

 この小説では、シジスモンの婚約者でついに結婚の約束が果たされないまま58歳となり、シジスモンの死後はその遺産相続人として、遺言状に記されたとおり、蔵書をまもるべくその売り立てを一切禁じられたエレオノール嬢の、世の「愛書家」への復習の物語でもあります。シジスモンの蔵書を自分のものにしようと、その彼女との結婚を決意した46歳のギュマールは、本を破壊しようとするエレオノール嬢との激しい戦いの末、ついに結婚を果たしますが、その蔵書にはエレオノール嬢の秘密の企みがほどこされていたのでした。その企みとは? どうぞ、愛書家の最後を見届けて下さい。

 この小説の面白さは、シジスモンの蔵書が語られるなかで、「本」の歴史を知ることができることです。世界で初めて活字印刷された聖書は「グーテンベルク本」といい、現在世界に48部しかなく、その一冊は、慶應義塾大学が保存しています。どうぞ、本の世界へ。 


◆柳川先生

福田浩、松藤庄平、杉本伸子『豆腐百珍 』新潮社、2008年
青木直己『幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版』 筑摩書房、2016年
今から230年以上前の天明2年(1782)に出版された料理本『豆腐百珍』のレシピを再現したもの。タイトルのとおり、豆腐を使った100種類(!)のレシピが掲載されている。(ちなみに、『豆腐百珍』には続編があるので、正続合わせると200種類ということになる。)江戸時代の料理を再現した料理本は他にも出版されているので、一風変わった「食欲の秋」を楽しみたい人に。『幕末単身赴任 下級武士の食日記』なども併せて読むと面白い。


◆原先生

坂崎乙郎『絵とは何か』、河出文庫 2012年(新装版)
秋といえば、やはり芸術の秋でしょうか。美術館にでも足を運んでみたくなりますよね。そんな時に絵をどう視るかについていろいろなヒントを与えてくれるのが本書。平易なエッセイですが内容は決して軽くはありません。


◆山川先生
丹下和彦『食べるギリシア人ーー古典文学グルメ紀行』(岩波新書新赤版1360)、岩波書店、2012年
ホメーロスの英雄叙事詩の主役の1人アキレウスの味覚から、喜劇に見られる庶民のレシピ、饗宴(シュンポジオン)の作法や指拭きパンの話、古代トイレ事情まで興味深い内容が盛り沢山です。秋の夜長を、寝転びながら一読されるのも一興!


◆山東先生

Robert B. Parker (著) Early Autumn, Dell; Reissue版,1992
 スペンサー・シリーズ7作目でパーカーの代表作です。“洋書”と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、ストーリーもさることながら、平易な英語で書かれているので、英語力UPにもうってつけです。秋の夜長、スペンサーと共に自分を見つめなおしてみませんか?(不安な人は、ハヤカワ文庫から邦訳『初秋』も出ていますので、合わせてどうぞ。)


◆古川先生

谷口真由美『憲法ってどこにああるの?』集英社、2016年










京都研修旅行

9月13日から15日までの3日間、恒例の京都研修旅行に行ってきました。今年度は集中講義(長期休暇中の数日間にまとめて15回の授業が行われる)と日程が重なったため、参加者は6人だけでした。例年は貸し切りバスを利用している移動も、公共交通機関となったため、交通の便のよい京都市内を中心に回りました。ちなみに、徒歩での移動が多かった1日目、万歩計は22000歩を指していました…
チケット・パンフレット色々。左から3枚目、慈照寺(銀閣寺)のものは家内安全と開運招福の御札になっています。
紅葉の季節にはまだまだ早い京都ですが、世界遺産の寺院は修学旅行の中学生や観光客でごった返していました。特に、海外からの旅行客が多く、宿泊したホテルでも日本語はあまり聞こえず、英語や中国語、フランス語などが飛び交っていました。

残念ながら遠方に足を運ぶことはできませんでしたが、例年は展示替えの期間中で休館している京都国立博物館を見学することができました。天気予報では雨が心配されましたが、本降りになることはなく、全日程を無事に終えることができました。





日本人なら誰もが知っている(?)あの建物。慈照寺と清水寺はあまりにメジャーなので、かえって行く機会がなかったという人もいました。銀色だったと思っている人もいるかも知れませんが、黒漆と彩色による装飾だったことが分かっています。右が当初の様子の再現。

広島市の平和公園からはるばる京都にやって来た被爆アオギリ。慈照寺の高台から見ることができます。

平安神宮に復元された応天門。


移動中に見つけた飴屋の看板。

こちらも知る人ぞ知る清水の舞台。清水寺は400年前の屏風絵などにも描かれていまがすぐに見つけることが出来ます。
ヨーロッパのお城…ではなく明治時代に立てられた京都国立博物館。現在は修復と調査の途中なので、中に入ることはできません。
展示が行われているのはこちらの平成知新館。現在、博物館が建っている場所は、豊臣秀吉の創建による方広寺の敷地の一部で、発掘調査によって判明した建物の柱の位置が右の写真のように示されています。
 

 嵐山にある天龍寺の庭園。ちょうど、池の鯉を鷺が捕まえたところで、大勢の観光客から歓声があがっていました。

今回最後の見学先は大覚寺。歴史や建物、庭園の素晴しさはもちろんですが、「大覚寺カフェ」の動画「Rock in大覚寺」のインパクトが全てを持っていってしまいました…(大覚寺のHPで探してみて下さい)