【月1企画】 教員による図書紹介(1)2016年10月

今月から、月1企画として「教員による図書紹介」を始めます(どこまで続くかわかりませんが)毎月決まったテーマから各教員が選んだ図書を紹介していきます。紹介される本のジャンルはさまざま。本との出会いを楽しんでください。

今月のテーマは、「秋といえば」です。

◆重迫先生
『ユリイカ 平成28年2月臨時増刊号[総特集]江口寿史』、青土社
「秋といえば」秋でなくても一年中、本を読むのが仕事であり、趣味でもある人間文化学科の教員として、今読んでいる雑誌の特集号をご紹介します。原稿が書けなくなることで有名な漫画家、江口寿史は、寡作でありながら、日本のマンガ史上重要な作家であり続けています。彼の作品をマンガに限らず、広く深く研究した成果、あるいはその存在への愛あふれるコメント満載の特集です。「趣味から学へ」の実践の一記録として推薦いたします。


◆脇先生

秋といえば、「食欲の秋」ですかね。池波正太郎も捨てがたいところですが、「食」で思い出したのはこの一冊。
野瀬泰申.『天ぷらにソースをかけますか? ニッポン食文化の境界線』、新潮文庫、2009年
私はかけませんよ、ソースなんて。麺つゆのようなタレ(+大根おろし)が多い気がします。お店だと塩でいただくこともありますよね。少なくとも、ソースは、無い。作者が集めたデータによれば、きれいな東西対立が見られるそうで。ソースをかけるのは、西日本全域・・・ん? わが故郷の大分も約半数の人がソース派とのこと。そうなのか。

食文化も言葉も、地域差は非常に興味深い事象です。ですが、「おもしろ~い」だけで終わるのはあまりにもったいない。その差が何を意味するのか。どのように変化しつつあるのか(例:恵方巻)。なぜそのような変化が起きているのか。これらを考えることで、私たち自身/私たちの社会に鋭いメスを入れることができます。「日本」「日本人」が一様ではない(=なぜ一様だと思い込んでいるのか)ということを再認識するための良い事例でもありますね。

ちなみに、この本、続編があります。タイトルは『納豆に砂糖を入れますか?』。う~ん・・・そもそも納豆が嫌いなんですけどねぇ。


◆清水


金庸著、岡崎由美監修、小島瑞紀翻訳『秘曲 笑傲江湖』全7巻、徳間書店、2007年
若い頃に寝食忘れて「読書の秋」を満喫した記憶を辿ったところ、この本に。(今は寝食忘れると家族に怒られますので…) 金庸(きんよう)は中国の武侠小説作家で、絶大な人気を誇ります。以前、他の大学にいた頃、法学部の先生たちと飲みに行った時のこと。とある先生に、自分が中国語の授業を担当していると話したところ、

「僕、金庸の作品大好きなんだよ。面白いよね!」という話で盛り上がりました。

法学がご専門の先生だったので、「こんなところにも金庸ファンが…」と驚いた記憶があります。「武」は武術(実際は方術も含む)、「侠」は「男気、男伊達」。しかし全編通じて男臭い訳ではなく、めっぽうかわいらしい女性も登場します。…そういえば、男でも女でもない登場人物もいたような…。とにかく、魅力的なキャラクター達が作品世界を縦横無尽に暴れ回ります。翻訳も読みやすいと思います。


◆青木先生

島木健作、ユザンヌ、佐藤春夫『本』、ポプラ社、2010年

「本」に取り憑かれた男たち─オクターブヴ・ユザンヌ「シジスモンの遺産」

インターネット時代の読書はネット小説、電子書籍と、デジタル読書が拡がっていますが、実はそんな風潮をあざ笑うかのように、「本」の中では密かに「本」マニアが生き生きと活躍しているのです。そんな「本マニア」の代表的な一人が、オクターヴ・ユザンヌ(フランス生まれ、1852~1931)です。彼が書いた小説「シジスモンの遺産」(1894年作、短編集『愛書家たちの物語』所収)には、強烈に「本」を愛し、価値ある「本」を奪い合う二人の愛書家同士の、すさまじい争奪戦が描かれています。その愛書家は、主人公ギュマールとその愛書家仲間のシジスモンの二人です。その戦いは、シジスモンの死後まで、彼の蔵書を守るために彼が遺した遺言状によって続いていきました。

 そんな「本」マニアは、「古本道楽」、「愛書家」、「書物狂い」などと呼ばれ、「文学への関心とは別個に、書物をそれ自体独立したものとして観賞する、すなわちその外的形態、用紙、印刷、装幀などを愛で、もっぱらその造形的美しさ、稀少性、保存状態などに書物の価値基準を置く」者たちで、その「伝統は、他のいかなるヨーロッパ諸国よりもフランスにおいて特に顕著であり、根強く行きわたっている」とのことです(「フランスの愛書家たち」─アンドルー・ラング著『書物と書物人』に拠る)。

 つまり、この世に1冊しかないとか、有名なあの人が持っていたとか、有名な出版人が出版したとか、著名な画家が装丁したとか、本の内容もですが、その本の成り立ちにドラマのある本とでもいいましょうか、そういった「本」そのものへの愛に、生涯を、いえ命をかけた男達の物語です。しかし、その「本」への愛着は、現実の生活を捨てさせ、この世ならぬ「物語」の世界に没頭させます。多くの「愛書家」の物語は、「愛書家地獄」とか、「愛書家煉獄」といった名前の通り、主人公の愛書家たちが、本のために自らをなげうち、破滅へとつき進む、悲劇の物語でもあります。

この男達にとって、「本」は、自分の建てた城で日々その美しさを眺める美女のようなものだと書かれていますが、このような男達は、愛によっていき、子供を産み育て、現実の世界に豊饒をもたらす女性にとっては、敵(かたき)以外の何者でもありません。

 この小説では、シジスモンの婚約者でついに結婚の約束が果たされないまま58歳となり、シジスモンの死後はその遺産相続人として、遺言状に記されたとおり、蔵書をまもるべくその売り立てを一切禁じられたエレオノール嬢の、世の「愛書家」への復習の物語でもあります。シジスモンの蔵書を自分のものにしようと、その彼女との結婚を決意した46歳のギュマールは、本を破壊しようとするエレオノール嬢との激しい戦いの末、ついに結婚を果たしますが、その蔵書にはエレオノール嬢の秘密の企みがほどこされていたのでした。その企みとは? どうぞ、愛書家の最後を見届けて下さい。

 この小説の面白さは、シジスモンの蔵書が語られるなかで、「本」の歴史を知ることができることです。世界で初めて活字印刷された聖書は「グーテンベルク本」といい、現在世界に48部しかなく、その一冊は、慶應義塾大学が保存しています。どうぞ、本の世界へ。 


◆柳川先生

福田浩、松藤庄平、杉本伸子『豆腐百珍 』新潮社、2008年
青木直己『幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版』 筑摩書房、2016年
今から230年以上前の天明2年(1782)に出版された料理本『豆腐百珍』のレシピを再現したもの。タイトルのとおり、豆腐を使った100種類(!)のレシピが掲載されている。(ちなみに、『豆腐百珍』には続編があるので、正続合わせると200種類ということになる。)江戸時代の料理を再現した料理本は他にも出版されているので、一風変わった「食欲の秋」を楽しみたい人に。『幕末単身赴任 下級武士の食日記』なども併せて読むと面白い。


◆原先生

坂崎乙郎『絵とは何か』、河出文庫 2012年(新装版)
秋といえば、やはり芸術の秋でしょうか。美術館にでも足を運んでみたくなりますよね。そんな時に絵をどう視るかについていろいろなヒントを与えてくれるのが本書。平易なエッセイですが内容は決して軽くはありません。


◆山川先生
丹下和彦『食べるギリシア人ーー古典文学グルメ紀行』(岩波新書新赤版1360)、岩波書店、2012年
ホメーロスの英雄叙事詩の主役の1人アキレウスの味覚から、喜劇に見られる庶民のレシピ、饗宴(シュンポジオン)の作法や指拭きパンの話、古代トイレ事情まで興味深い内容が盛り沢山です。秋の夜長を、寝転びながら一読されるのも一興!


◆山東先生

Robert B. Parker (著) Early Autumn, Dell; Reissue版,1992
 スペンサー・シリーズ7作目でパーカーの代表作です。“洋書”と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、ストーリーもさることながら、平易な英語で書かれているので、英語力UPにもうってつけです。秋の夜長、スペンサーと共に自分を見つめなおしてみませんか?(不安な人は、ハヤカワ文庫から邦訳『初秋』も出ていますので、合わせてどうぞ。)


◆古川先生

谷口真由美『憲法ってどこにああるの?』集英社、2016年