【不定期企画】 教員による図書紹介(3)2016年12月

清水です。ほぼ月1企画となっている「教員による図書紹介」第3回は、学生の声に応えてみました。お題は、「趣味の一冊」です。趣味も趣味に対する考え方もさまざま。

◆脇先生

親譲りの無趣味で、子どものときから夢中になる「何か」があまりありませんでした。そんな僕にも寝食を忘れ、いや忘れませんが、かなりハマったものがあります。ひとつは歴史、もうひとつは音楽です。小学生~高校生の自分は重度の歴史オタクでした。が、時は移ろうもの。今でも好きではありますが、趣味と呼べるほどではないのです。

音楽は趣味です。間違いなく。大学生のときは、アコギをジャカジャカ弾いて隣から“壁ドン”を頂戴したことも。隣の人、ごめんなさい。というわけで、「趣味の一冊」というお題に応えるならこれかな、と。
rockin'on 2017年 01 月号
『ROCKIN’ON JAPAN』2017年1月
正直なところ、熱心な読者とは言えないと思います。学生時代、毎月立ち読みはしていましたが、買ったのはほぼゼロ。本屋さん、ごめんなさい。けれど、渋谷陽一の、自分勝手だけど熱量の多い記事は、僕のサブカルへの興味を開いたきっかけです。自分の解釈をより大きな文脈に乗せて考えるという「快感」を教えてもらいました。

その「快感」が研究で味わえるようになったからか、今はまったく読んでいません。音楽は自分のために聞くもの。ようやく純粋な趣味になったのだと思います。

◆古川先生
『東京のパリ案内―パリジェンヌ気分でめぐる都内50スポット』六耀社、2010年
フランスの日常的な文化に興味があり、また、専門研究の1つにフランス民法があるので、心はフランスに向かっています。このところ、時間と費用の関係でなかなかフランスに行く機会を持てなく、この本で日本のパリを楽しんでいます。まだ、どこも行ってはいませんが、この本が傍にあるだけで幸せです。

◆山東先生

Jonathan Maberry著,The X-Files: Trust No One,Idea & Design Works
私がアメリカに留学したのは1993年から94年にかけてですが、ちょうど93年秋から放映が始まったのがこのX-ファイルです。当時は英語の勉強も兼ねて、毎週寮のリビングでテレビの前に陣取っていましたが、ハマりすぎた結果?とうとう夢の中で、モルダー&スカリーと共演を果たしました(笑)

ペーパーバックだけでは物足りず、オフィシャルガイドブック・ マガジン・マップ、スクリーンプレイ、攻略本、CDなど、色々取り揃えています。興味のある方はぜひ研究室までどうぞ。

◆原先生

私は「趣味」という言葉が昔からどうも胡散くさくて気に入らない。真剣ではなくそこそこでいい、気散じの対象というイメージがつきまとっているからだ。仕事の補完物であり、どうでもよい退屈しのぎという意味での趣味など持ちたくもないし、「無趣味」で大いに結構と言いたい。

そもそも労働とその余暇にする趣味という近代ブルジョワ社会が体制維持のために都合よく生み出した二分法にどうしてこちらが従わなくてはならないのだろうか。仕事が苦痛としか感じられないのは不幸であり、疎外された労働を糊塗するためにあてがわれる余暇での趣味は、おのずから負の刻印を帯びざるをえない。それも無類の読書好きであり、それが昂じて仕事との見境がつかないほどになっている人文学研究者であればなおさらのこと、趣味と読書を同類に並べるには違和感を覚えざるを得ない。趣味などという甘い言葉ではなく、好奇心・興味をとことん突き詰めていくことこそ、人文学の醍醐味なのだから。
水木 しげる 『妖怪になりたい』 、河出文庫、2003
趣味と仕事という二分法に囚われない生き方を学者としてではなく、漫画家として実践したのが他ならぬ水木さんであり、自分の根っからの「奇妙なことへの興味」に趣味としてではなく、真剣に取り組み仕事へと昇華させた希有な例であろう。私も生来いろいろなことに興味をもっているが、それを自分の仕事と全く関係のない遊びや趣味としてほどほどに追求するのではなく、仕事と同程度かあるいはそれ以上に真剣に追求して相互に作用を及ぼしあうのが良いと考えている。

◆青木先生
アガサ・クリスティ『茶色の服を着た男』、東京創元社、1967
私が学生のころ、落ち込んだときにいつも寝転がって読みふけったのがこの本です。若い女性主人公の、あり得ないようなスリルとサスペンスの冒険物語で、主人公と自分を重ね、時間を忘れて物語にのめり込みました。主人公のアン・ベティングフェルドは、父を亡くして天涯孤独の身になり、職探しをしている最中にロンドンの地下鉄ホームで、偶然隣にいた男が線路に転落して感電死するという不気味な事件に出くわします。それを皮切りに、次々と殺人事件に出くわし、ついには暗号の手紙に導かれてアフリカ行きの客船に乗り込み、事件の核心と関係のあるらしい「茶色の服の男」の謎を追いかけることになります。そして、いつの間にか危険な事件のど真ん中に飛び込むことになるのです。そこには、美しき堕天使ルシファーが彼女を待っていました。自分のあこがれの人が実は恐ろしい悪人であったというどんでん返し。アガサは、次々に魅力的な仕掛けを繰り出し、読者を物語に引き込みます。

物語のクライマックスは手に汗握る脱出ドラマで、主人公が危険から逃れるまでを一体となって体験することになります。それを読み終わるころには、落ち込んだ気分も出来事からもいつの間にか抜け出しているというのがいつものことでした。退屈な日常から抜け出したいときにおすすめの第一級の冒険物語です。長い冬の夜にどうぞ。

◆清水

 「趣味」をどのようなものと考えるかは人それぞれだと思いますが、「趣味」を余暇の過ごし方の一つ、とするなら、今の私に趣味はありません。スケジュールを見ると、仕事、家事、育児、休養(仮眠など)だけで、余暇と言える(思える)時間がない…。

読書もタイトルを見直してみれば仕事や研究関連のものがほとんど。しかし、日頃数分の隙間時間があれば読んでいた本がありました。珈琲関連の書籍です。
臼井 隆一郎「コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液』、中央公論社、1992
珈琲の発祥から説き起こす本書は、珈琲という「黒い液体」が、各国の宗教や歴史の細部にまで流れ込んでゆくさまが、それはそれは緻密に描かれています。「ちょっとお茶でも」の意味がこんなに違うなんて…と驚きますよ。これを読んで私が思い浮かべたのは、台湾の(実は)豊かな珈琲文化。(日本ではなかなか飲めないですが、「阿里山コーヒー」は有名。)ということで、最近は台湾珈琲文化の本を探しています。自身の専門とは全く関係ないけれど、何かしら仕事の一つにできれば…と思ってます。