教員による図書紹介(村上ゼミ)


藤原辰史『給食の歴史』(岩波書店、2018年)

みなさんは、これまでに給食に苦しんだことはありませんか。食べるのが遅いこと、あるいは好き嫌いがあることを教員に叱責され、休み時間や放課後に教室に残された苦い思い出はありませんか。かく言う私にも嫌な思い出があります。今回紹介する本は、身近にはありながら、その歴史を考えることがほとんどないと思われる、給食に光をあてた『給食の歴史』という本です。


本書は、年号や人名の記憶に労力を費やすこととは異なる歴史の面白さを教えてくれる労作です。ここでは2つの点に言及しておきましょう。

ひとつは給食という食文化がもつ奥深さです。本書は、給食がもつ3つの側面、つまり大人による子どもへの権力行使、大人に関わる経済的利害の存在、子どもの成長を助け、場合によっては命をつなぐ機能をおさえたうえで、「給食の可能性のために書かれる」〔まえがきより〕ものです。

いまひとつは、研究主題との向き合い方です。文献から得られる知見のみならず、給食現場の声にも耳を傾ける著者の真摯な姿勢には、学生のみなさんにとって学ぶところが多いはずです。実際「ヨーロッパ史文献講読1」において本書を紹介した際には、受講生とともに給食について考える場を共有することができました。少しでも関心を持った人は、是非一度手に取って読んでみてください。