図書館セミナー「本de自分史―もうすぐ絶滅するという紙の書物について―」(回想篇)

清水です。今回は、今年5月に行われた図書館セミナー(舞台裏)の記事を再アップします。担当は脇先生です。ではどうぞ。

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去る5月27日(水)に、平成27年度の「第一回図書館セミナー」が開催されました。このイベントについては、すでにKさんによる報告が学長室ブログにアップされています。ということで、学科HPでは、企画者自らこのイベントの“舞台裏”を明かそうと思います。

【序】妄想からの構想

きっかけは雑談から。

そもそもの発端は、友人との雑談でした。「初めて買ったCDって何だったか覚えてる?」と、質問したのかされたのか…ある程度年齢を重ねると、過去を振り返りたくなるときがあるものです。みなさんの「初めてのCD(レコード?)」は何でしたか?

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http://www.amazon.co.jp/BOOM-UNICORN/dp/B009TUHJME/ref=sr_1_2?s=music&ie=UTF8&qid=1433146012&sr=1-2&keywords=%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B3+boom

ちなみに私は、中学三年生あたり、たぶん次の二つのどちらかです(ジャケットをクリックするとAmazonのページに飛びます)。そのとき、ふっと思ったのです。 「初めてのCD」は話題に出ることがあっても、「初めての本」はなかなか話題に上らないなぁ…あ、これ面白いかも、と。

三人の“語り部”とタイトル

「図書館セミナー」の依頼がきたのは、そんなときでした。
 従来の講演形式ではなく、複数人の“語り部”で雑談(?)をするという発想は、芸能人や作家などが行うトークイベントからいただきました。大学のイベントも、もっと肩の力を抜いたもののほうがきっと面白いはず。

イベントのタイトルはすぐに決まりました。某ドーナツ屋さんの人気メニューから「本de自分史」。サブタイトルは、エーコ(イタリアの文学者・哲学者)の本から「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」。

このサブタイトルをつけたのにも、理由があります。スマホの普及が私たちに及ぼす影響について考えたかったからです。紙媒体の「本」を擁護するというよりも、「書く/読む」が日常から消えていくことの功罪や、それがもたらす私たちの変化を捉えたかったのです。別の表現をすれば、「本は豊かな心を育む」などといった感情論的な反応ではなく、電子書籍に正面から立ち向かえる切り口を見つけたいと考えたのでした。

【破】三人×三問の化学反応

三つの質問

さて、私が“語り部”として声をかけたのは竹盛先生と若松先生でした。竹盛先生と私は国語(日本語)という分野での共通項があり、若松先生と私は同級生という年齢での共通項がありました。専門分野や年齢でどのような違いが出てくるのか…このイベントでの最大のポイントは、人選にあると思います。

私を含めた三人は、事前に以下のアンケートに回答しました。みなさんの答えはどのようなものでしょうか?

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今まで読んだ本の中から「この3冊」(ターニングポイントになった本/印象に強く残っている本など)を挙げてください。ただし、1冊目については「記憶の中で最初に出てくる本」という条件をつけます。

① 記憶の糸を手繰って過去の記憶を呼び覚ましてください。
                                                 記憶の糸の端にある「最初の本」は何ですか?
② 次の1冊を挙げてください。

③ 最後の1冊を挙げてください。

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三人の結果は以下の通りです(クリックするとamazonのサイトにとびます)。

竹盛…① モーツアルトの伝記 
     ② 竹内芳郎『言語・その解体と創造』
     ③ 椎名誠『定本 岳物語』

脇……① コナン・ドイル「まだらの紐」
          ② 山田詠美『ぼくは勉強ができない』
          ③ ロールズ,J.『正義論』

若松…① ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』
          ② アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』
          ③ ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』

せっかくなので、当日特に盛り上がったものを一人一冊ずつご紹介。

・脇の一冊:「まだらの紐」
 作者からおわかりのように、そう、シャーロック・ホームズです。たしか小学校三年生か四年生で読んだはず。今なお、伏線のたくさん張られた物語が大好きです。まさに原体験。画面に書名を出した瞬間「おぉ!」という声が。わたしはその後、横溝正史や江戸川乱歩にもハマるのですが、参加者の中にも仲間がたくさんいたようです。

・若松先生の一冊:『ユリシーズ』
 驚きの声があがったのは、その話の長さ。わずか一日を描くために、ハードカバー(邦訳)で三巻! そして、作者であるジョイス特有の表現にも注目が集まっていました。同じイギリス文学である『不思議の国のアリス』もそうですが、原文(英語)片手に読むとその面白さが何倍にもなります。ジョイスの言語感覚は…何と言えばよいのか…とにかく凄まじい。ぜひ一読を。

・竹盛先生の一冊:『定本 岳物語』
この本は父子の物語なのですが、当日は、竹盛先生とかつての教え子の物語が語られました。その内容に、参加者全員の心がたしかに動きました。書くのがもったいないので秘密にしておきます(笑)印象的だったのは、「誰かに気持ちを込めて『贈る』ということができるのは、本であって、データ(電子書籍)ではない」ということです。

【急】俺たちに明日は、ある?-本と大学の存在意義

予想通り、参加者のみなさんは紙媒体の本が好きな方ばかりでした。電子書籍の優れた点を挙げる学生もいましたが、その学生も紙媒体は捨て難い様子。その感覚/感情の正体は一体何なのでしょうか?紙でなければならない理由などあるのでしょうか?

電子書籍やスマホに移行する功罪はきっとあります。問題は、その“罪”がどういうものなのか未だによくわからないということです。もしその“罪”が社会に対して取り返しのつかない悪影響を及ぼすのだとしたら、大きな声で世の中に警告する必要があります。それこそ、私たち人文学系の学科/研究者の仕事だと思うのです。
また逢う日まで

はたして「次回」はあるのか…私にもまだわかりません。ただ、いつかこれを本屋さん(店舗内)で開催したいという野望をもっています。テーマや人選を変えれば、無限の組み合わせで楽しめますよね。どうあれ、“語り部”三人は、楽しい時間を過ごしましたがどっと疲れました(笑)

最後に、ご参加くださったみなさまに心より感謝いたします。私の妄想に振り回された竹盛先生と若松先生にも、感謝と同情を。