ゼミ紹介6(青木ゼミ-日本近現代文学研究ゼミ)

青木ゼミでは、2007年から、郷土の作家・井伏鱒二の「在所もの」(備後地方を舞台にした作品)を取り上げ、作品に描かれた地域文化についてフィールドワークを続けてきました。

今年、三年生のゼミでは、小説『鞆の津茶会記』(1986・昭和61年)を読み、講師に備陽史探訪の会会長・田口義之氏を招いて、第1回フィールドワークを行いました。

小説『鞆ノ津茶会記』は、戦国時代の後半期、小早川隆景の家臣を主とする地域の武将たちが、鞆の浦の対潮楼、安国寺庫裏、神辺の鳥居兵庫頭の屋敷などで開かれた茶会に集まり、その出席者の一人が、みんなが話したいろいろな噂話を書き留めた記録という体裁をとっている小説です。

その中では、歴史の教科書には出てこないような、地元の武将たちが登場します。中でも、何度も人びとの噂に上ったのは、杉原盛重と、その息子たち─元盛・景盛の間で起きたお家騒動の話です。時代は大河ドラマ「真田丸」と同じ時代で、織田信長の中国攻めの頃のことです。今回のフィールドワークでは、杉原盛重が地域に遺した事跡を辿りました。

講師 備陽史探訪の会会長・田口義之氏

参加者
 青木ゼミ3年生(井上翼 佐藤未佳子 高橋幸子 溝口りな 宮地菜緒 山廣愛)
 聴講生 小川マチ子
 学生有志 藤岡瞭 児玉樹 木村美沙希 小林朋美 保手浜菜摘
 教員 青木美保 前田貞昭(兵庫教育大学大学院教授) 谷川充美(本学非常勤講師)
 報道関係者─粟村真理子(中国新聞エリア通信員) 雨宮徹(朝日新聞記者)

日時 2016年10月30日9:30~16:30

見学場所
 1,赤坂八幡神社(天正8・1580年、神辺城主・杉原盛重再興)
   宝篋印塔(福山市重要文化財・14世紀半ばの建立)
   西国街道沿いの常夜燈
 2,三宝寺(山手町、杉原家菩提寺、杉原家の墓、位牌見学)
   太閤屋敷跡(秀吉が九州下向の際に立ち寄った時、近在の武将が建てたという)
 3,天別豊姫神社(神辺町、伝・杉原盛重奉納の兜見学)
 4,鳥居兵庫頭屋敷跡(湯野・城之内、遺稿の石組みらしきものあり)
 5,国分寺(神辺町、杉原盛重再興)
 6,蓮乗院(八尋、杉原盛重寄進・五仏像見学)

杉原盛重は平清盛と同族で家柄よく、当時全国でも三本の指に入る有力武将で、福山の町作りの基礎を作ったということです。その経済力の源は、中国地方の鉱物資源(金・銀・鉄・銅)と、海陸の流通を押さえていたことによるとのことです。

小説を読んだだけではどうして杉原家のことがこんなに描かれるのかよくわかりませんでしたが、事跡を辿るうちに杉原盛重一統の存在感がひしひしと感じられてきました。

参加した青木ゼミでは、直後のゼミの時間にフィールドワークの報告会の第一回目を開きましたが、「これまで歴史が苦手で小説になかなか入れなかったが、実際に場所を巡ることで、歴史を身近に感じた」(山廣)という感想が聞かれました。また、赤坂・神辺に住む学生達は、特に強くそのことを感じたようで、次のように言っています。

「今回のフィールドワークで最初に訪れた赤坂八幡神社がある赤坂町は私の地元であり、八幡神社に入る道の手前に立っていた石造りの常夜灯も昔からよく見ていたもので、神社もあまり行ったことはなかったが知っている場所だった。しかし、神社の歴史自体についてはこれまで深く知ろうとしてこなかったため、この八幡神社を再興したのが杉原盛重であるということを初めて知り、驚いた。私たちが歩いたあの八幡神社の場所も、過去に盛重が同じように歩いたのだろうかと思うと、何だか盛重を身近に感じられるような気がした。」(佐藤)
天分豊姫神社所蔵 伝・杉原盛重奉納兜
TOPICS

今回のフィールドワークでの第一の成果は、杉原盛重寄進の五仏像です。これは、仏像の背面に、寄進主、願主、仏師の名前が直接記されている極めて重要なものです。青木は、神辺歴史民俗資料館の2015年度秋の企画展「杉原・福島時代の神辺城」で展示されていた際にこれを見て以来、ぜひ学生にも見せたいと今回のフィールドワークに組み入れることを考えていました(神辺歴史民俗資料館の学芸員の方には、2015年度地域文化研修の際にその展示資料の一部をデータ支給していただきました)。そして今回、ご住職のご好意によって、学生たちの見学が実現したのです。

講師の田口義之氏も極めて貴重な資料であると驚かれ、これを世に出したいと今後の調査について意欲を示されました。写真は、蓮乗院の門前でとった集合写真と、五仏像の写真です。(粟村真理子氏提供)


さて、青木ゼミの今年のフィールドワークの目標は、『鞆の津茶会記』の研究と同時に、これを中心とした戦国時代の歴史を巡る観光ルートの提案にあります。特に神辺町と鞆の浦を中心に、周辺の産物なども含めたものを、学生とともに考えてみたいと思っています。12月には、鞆の浦へのフィールドワークを行う予定です。